2026年3月25日

30年分の名刺をAIに食わせたら、埋もれていた人脈が武器になった

河上純二(かわかみ じゅんじ) 株式会社JY LINK 代表取締役。1971年生まれ。中央大学法学部政治学科卒業。デジタルハリウッド本科クリエイティブ科卒業。

1994年株式会社丸井入社。その後株式会社USENにて新規インターネットビジネスの立ち上げ及びインターネット事業部門責任者に従事。株式会社medibaにて新規モバイル事業立ち上げ責任者を経て、2011年8月から株式会社D2Cでコンシューマ事業部門長に従事。2017年10月に株式会社JYLINKを創業、代表取締役に就任。

著書に『10年後に活きる人脈のつくり方 〜自分らしい、幸せな働き方を実現しよう!〜』(日本能率協会マネジメントセンター)、『差がつく雑談:できる人が実践している伝え方』(三笠書房)。名刺管理サービス「Eight」には1万1,000人、Facebookには約8,000人のビジネスネットワークを持つ。


顧問先でも、AIの話は避けて通れなくなった

── 河上さんは大企業からスタートアップまで、さまざまな企業のアドバイザーをされていますよね。最近、AIに関する相談は増えていますか?

増えてますね。もう避けて通れない。組織づくりや人員体制、今後のグロース戦略を議論する上で、AIの話題が出ない会議はほぼなくなりました。顧問先にはAIを事業にしている会社もあるので、業界の知識やノウハウは日々キャッチアップしているつもりです。

ただ、正直に言うと、自分自身が最前線でAIを使いこなせているかというと、まだそこまでではなかった。概要や業界動向は把握しているけど、実際に手を動かして何かを作るところまではいけていなかったんです。


MYUUUと一緒に、30年分の名刺をAIに読ませてみた

── 今回、株式会社MYUUUと一緒に名刺データをAIで分析する体験をされたそうですね。

はい。株式会社MYUUUの室谷さんに協力してもらって、Eightに溜まっていた1万1,000人分の名刺データを「Claude Code」というAIツールに読み込ませてもらったんです。各社の事業概要も紐づけてくれていて、ただの名前リストじゃなくて、文脈を理解したデータベースになっていた。

試しに「不動産領域でアライアンスを組みたいんだけど、リストアップしてくれないか」って聞いてみたら、57件ヒットしたんですよ。しかも、業種で機械的に引っかけるんじゃなくて、「この会社とはこういう組み方ができそうです」と整理して出してくる。

完全に忘れていた人脈が次々と出てきて、「この人ともつながってたのか」という発見がいくつもありました。AIに聞かなければ、一生気づかなかったかもしれない。

過去の遺物がこうやって再利用されるっていう感覚は、すごく面白かったですね。「30年ぶりでご無沙汰しています。実はAIがあなたの名刺を引っ張り出してきたんですよ」なんて連絡できるわけじゃないですか(笑)。


「外観はわかっている。でも手が動かない」── それが経営者のリアル

── こうした体験を経て、改めて経営者のAI活用の現状をどう見ていますか?

自分自身がまさにそうだったんですけど、「外観はわかっているけど、実際に手を動かせていない」っていうのが、多くの経営者のリアルだと思います。

私の所感では、こんな感じかなと。

積極的に取り組んでいる経営者は、約2割。 Xなどで「ここまでやってます」と発信している人たちは目立っているし、注目も集まっている。でも、実際にあのレベルでやれている経営者は2割程度でしょう。

触ってはいるが、手探りの状態が約3割。 IT業界を中心に、使い始めてはいるけれど、まだビジネスの成果につなげるところまではいっていない。

知っているが、自分では取り組めていないのが約5割。 旧産業や大企業の経営層に多いですね。ビジネストレンドとして生成AIの動向は見ているけれど、自分のオペレーションに落とし込むところまでは行けていない。

今回のように誰かに手を動かしてもらいながら体験すると、一気に解像度が上がる。「ああ、こういうことができるのか」と腹落ちする瞬間があって、それが次のアクションにつながっていくんだと思います。


SaaSの崩壊と、大量採用企業の苦悩

── 顧問先でも、生成AIによるビジネスモデルへの影響は感じていますか?

かなり感じています。特にSaaS企業。サブスクリプションモデルの根幹を揺るがしかねない存在として、生成AIに対して非常にセンシティブになっている企業が増えています。どう向き合うか、どう対抗するか、どう乗り越えるか──まさに試行錯誤の渦中ですね。

それから、大規模なバリュエーションで調達して、一気に正社員を増やした会社が苦しくなってきているという話もよく聞きます。まだ社会問題にはなっていませんが、じわじわと浸透していて、この2〜3年で大きく表面化してくるだろうなと。

人手不足と言われていたのに、もしかしたら人余りの時代に入りつつあるのかもしれない。各部門にマネージャーが1人いて、その下のオペレーションはAIが回す──そういう構造に近い将来なっていく可能性は十分あると思っています。


日本の経営者は「人情論」を超えられるか

── 海外では「一人ユニコーン」や「10人で数兆円企業」といった議論もあります。日本ではどうですか?

正直、日本はそこまでドラスティックにはいかないだろうなと思っています。

海外の話は理解できるし、方向としては間違っていないと思う。ただ、日本人は自分が積み上げてきた組織や人に対する情がある。究極的な人員削減に踏み切れる経営者がどこまでいるかは、なかなか難しい問題です。

一方で、サイバーエージェントのように全社的にAI導入を進めている大手もいれば、まだ様子を見ている企業もある。この温度差がどんどん開いてきていて、先進国の中でもAI導入のスピードが遅れていく可能性は正直あるかなと感じています。

ただ、だからこそチャンスでもあるんですよ。今取り組めば、まだ周りがやっていない分、先行者利益を取れる。AIから遠い業界にいる方ほど、実はチャンスが大きい。


ベテラン経営者ほど、AIの恩恵を受けられる

── 最後に、AIに興味はあるけど一歩が踏み出せない経営者に向けてメッセージをお願いします。

今回MYUUU社と一緒に名刺データをAIに読ませてみて強く感じたのは、長年ビジネスをやってきた人間ほど、AIの恩恵を受けられるということです。

名刺データ、過去の経歴、人脈、業界知識──若い世代がテクノロジーに強いのは事実だけど、AIに食わせるべき「データの蓄積量」では、ベテラン経営者のほうが圧倒的に上なんですよ。そこにAIを掛け合わせれば、埋もれていた人脈が武器に変わる。新しいビジネスの種が見えてくる。

私自身も、今回の体験を通じて「これは本格的にやらないとまずい」と感じました。生成AIの外観は理解していたけれど、実際に自分のデータで動くところを見ると、解像度が全然違う。

このコミュニティでは、同じ立場の経営者同士で切磋琢磨しながら、「現代の組織最適化」と「未来の少人数経営のあり方」の両方を議論していきたい。自分ですべてコントロールして効率を上げたいし、少人数でできる新しい事業のつくり方にもチャレンジしたい。

まずは自分のデータをAIに読ませるところから始めてみる。それだけで、見えている景色がガラッと変わるはずです。


取材・構成:株式会社MYUUU 2026年3月25日収録

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