Niche Hunter 開発者 事業開発・企画を本業とする非エンジニア。DOT AI 自動運転部・第1期コンペティションにて、ニッチ市場の機会を自律的に発見・検証するマルチエージェントパイプライン「Niche Hunter」でMVP第2位を受賞。
目標は「3週間で作り切ること」だった
── MVP第2位、おめでとうございます。受賞した瞬間、率直にどう思いましたか。
かなり驚きました。せっかく参加するからには評価されたいという気持ちはありましたが、自分の中では「まず3週間で作り切ること」「自分が本当に使いたいと思えるものを形にすること」が主な目標だったので、想像以上の結果でした。
特に嬉しかったのは、単に動くものを作ったことではなくて、Niche Hunterの思想や設計を評価していただけたことです。アイデア出しツールをつくったつもりはなくて、課題を拾う、見極める、検証する、次の意思決定につなげる、という一連の流れを仕組みにしたかったので。
「この方向性は間違っていなかったのかもしれない」と、少し自信になりました。
新規事業が「やり切れる一部の人のもの」になっている
── 何を解こうとして、このシステムを作ったんですか。
新規事業開発が、成功確率も低く難易度も高いために、実際には限られた一部の人しかやり切れないものになっていることです。
世の中には、まだ拾われていない課題の声が大量にあります。Yahoo!知恵袋、OKWave、note、X、レビューサイト、M&Aサイト。いろいろな場所に「困っている」「既存のものでは足りない」「どうすればいいか分からない」という声が存在している。
ただ、それらを見つけて、見極めて、検証まで進めるには、かなりの時間と経験が必要です。結果として新規事業は「やりたい人のもの」ではなく、「やり切れる一部の人のもの」になりやすい。
そこを、発見・選別・検証を仕組みにすることで変えたいと思いました。
── 実際、どこから声を集めているんですか。
収集はScoutという層が担っていて、4系統に分けています。ToC向けは知恵袋・OKWave・はてな匿名ダイアリー・note。ToB向けは業界×課題のクエリで知恵袋とOKWave。それとX、あとはM&AのTRANBIとBatonzですね。
M&Aサイトを混ぜているのは、実際に売買が成立している領域は「そこに事業が実在する」証明になるからです。悩みの声だけだと、market があるかどうかまでは分からないので。
人間を作業から外し、意思決定に集中させる
── 「Human Out of the Loop」というテーマ、最初に聞いてどう解釈しましたか。
最初は「人間が一切関与しない完全自動システム」という印象を受けました。ただ、考えていくうちに、自分の中では少し違う解釈になったんです。
人間を完全に排除するというより、人間を作業から外して、意思決定に集中させるという解釈です。
新規事業探索では、情報を拾う、整理する、比較する、下書きを作る、検証導線を用意する、といった作業が大量にあります。ここに人間が張り付いていると、肝心の「どのテーマに張るのか」「どのリスクを取るのか」「次に何を検証するのか」という判断に時間を使えなくなる。
だからNiche Hunterでは、課題収集、採点、初期検証、LP作成、Xやnoteの文案作成まではできるだけ自動化して、人間は最後に承認して判断する立場に寄せました。
僕にとってのHuman Out of the Loopは、人間不要ではなく、人間が本当に価値を出すべき場所に戻るための設計でした。
一番しんどかったのは、採点設計
── 3週間で作り切るうえで、一番しんどかったところは。
採点設計です。実装ももちろん大変でしたが、それ以上に「何を良い候補とみなすのか」を決めるのが難しかった。
たとえば、感情的に強い悩みはたくさんあります。「しんどい」「つらい」「孤独だ」といった声には強く共感できます。でも、共感できる悩みがそのまま事業になるとは限らない。
逆に、感情的には地味でも「毎月この作業に5時間かかる」「既存ツールではこの部分だけ解決できない」といった課題のほうが、事業としては成立しやすいこともあります。
── そこで6軸にしたと。
誰の課題か、何に困っているか、なぜまだ解決されていないか、今の手段で小さく解けるか、今やる理由があるか、そしてお金になる導線があるか。この6つです。
重み付けもしていて、**収益化可能性だけ35%**にしています。次が「なぜまだ解決されていないか」で20%。逆に緊急性は5%まで落としました。面白い悩みではなく、誰に何をどう売るかに変換できるかを見たかったからです。
この採点思想を作るところが、一番悩みました。
「面白そう」で止まらないためのGate
── 逆に、これは刺さったと思う仕組みは。
段階的に絞るGate設計です。候補を一気に採用するのではなく、まず採点で絞り込み、その後に机上検証、社会反応、LPでの反応、再現性の順に確認していきます。
Gate1は総合60点以上かつ収益化40点以上、Gate2は市場規模と収益モデルが確認できていること、Gate3は社会的な反応スコア、Gate4はコンバージョンが1件以上、Gate5は2件以上かつ再現性スコア50以上。通過するほど条件が実世界寄りになっていく設計です。
この設計にしたことで、「面白そう」で止まらず、「本当に前に進めるか」を段階的に見られるようになりました。
── Gateを通った候補は、その後どうなるんですか。
LPを自動生成してVercelにデプロイして、コンバージョンまで計測します。それとは別に、noteの記事を書いて投稿する、関連するツイートに返信する、note投稿をXでアナウンスする、というところまでエージェントが持っています。
人間がゼロから作業するのではなく、AIが候補を整理して、検証導線や発信文案まで作って、人間は最後に承認して判断する。この構造は、テーマにかなり合っていたと思います。
自動化の価値は「全部勝手にやってくれること」ではなく、人間が作業者ではなく意思決定者になれることだと感じました。
── 通った候補から学習もするんですよね。
PatternForgeというエージェントが、通過した機会から勝ちパターンを抽出して溜めていきます。あとMetaLearnerが6時間ごとに全体データを分析して、改善提案を出す。予算も自動管理していて、API利用が日次上限に達すると該当プロバイダのエージェントが止まって、翌日リセットで再起動します。放置して破産しないように、というだけの話ですが。
「LLMに投げるのと、何が違うのか」
── 審査はかなり厳しめだったと思います。実際に受けてみてどうでしたか。
厳しかったですが、すごくありがたかったです。
特に印象に残っているのは、**「これは結局プロンプトを工夫してLLMに投げるのと何が違うのか」**という問いですね。
かなり本質的な質問だと思いました。実際、Niche HunterもLLMを使っていますし、単発で「事業アイデアを出して」と聞くこともできます。
ただ、やりたかったのは単発生成ではありません。探索・選別・検証・学習を、状態を持って継続的に回すことです。公開情報から課題シグナルを収集して、6軸で採点して、Gateで段階的に絞って、LPやコンバージョンまで見て、結果をDBに残す。
つまり、LLMに聞くのではなく、LLMを部品として使いながら、事業探索のプロセスそのものをシステム化する。そこが違いだと考えています。
審査でその問いをいただいたことで、自分の中でもNiche Hunterの価値をより明確に言語化できました。
考えるより、まず作る
── 他の参加者のピッチはどうでしたか。
率直に、レベルが高いと感じました。単にAIを使って便利なものを作るというより、皆さんそれぞれが「AIをどうワークフローに組み込むか」「どこまで自律化するか」「どう実用に近づけるか」を考えていました。
AI単体の性能だけではなく、どこに人間を残すか、どう失敗しないように設計するか、というところまで踏み込んでいる方が多かった。もう「AIに何か聞く」段階ではなく、AIを使って一連の業務や判断の流れをどう再設計するかがテーマになっていると感じました。
── 参加してみて、正直どうでしたか。
本当に良かったです。一番大きかったのは、「考えているだけではなく、まず作る」という感覚を得られたことです。
普段は事業開発や企画の仕事をしているので、どうしても最初に市場規模や競合、収益性、リスクなどを考えがちなんです。それ自体は大切ですが、考えすぎると手が止まる。
今回は3週間という期間が決まっていたので、とにかく作るしかありませんでした。作って、動かして、詰まって、直して、また見せる。その繰り返しです。AI駆動開発によって、非エンジニアでもかなりのところまで形にできるという実感を得られたのは大きかったですね。
「エンジニアじゃないから」で止まっている人へ
── 最後に、これから入ってくる人に一言お願いします。
もし「自分はエンジニアじゃないから難しい」と思っている人がいたら、ぜひ一度挑戦してみてほしいです。
もちろん、技術力はあったほうがいい。エンジニアの方が有利な場面もたくさんあります。ただ、いまのAI駆動開発では、何を作りたいのか、なぜそれを作るのか、どこに価値があるのかを考えられる人にも大きなチャンスがあります。
僕自身、エンジニアではありませんが、今回Niche Hunterを作って、MVP第2位をいただくことができました。
大事なのは、最初から完璧に作ろうとしないことだと思います。まず小さく作る。動かしてみる。見せてみる。フィードバックをもらう。そこから直す。
このサイクルを回すだけで、見える世界がかなり変わります。自動運転部は、その一歩を踏み出すにはすごく良い場所だと思います。
