Sakky(サッキー) 2025年に独立し、自身の会社を立ち上げたばかりの一人経営者。前職はB2B SaaS企業。エンジニア出身ではないが、データ収集やサービス仕様の設計に携わってきた。DOT AI 自動運転部・第1期コンペティションにて、子育て支援金の自治体比較サービスでMVP第1位を受賞。
「形にして終わり」にはしたくなかった
── まず、MVP第1位おめでとうございます。受賞した瞬間、どんな気持ちでしたか?
純粋にとても嬉しかったです。ただそれと同時に、これは事業としてやろうとしているものなので、しっかり結果も出していかないとな、と。気持ちが引き締まる、という感覚のほうが強かったかもしれません。
── 最終選考の6人に残った時点で、他の方のプロダクトはご覧になりましたか。
はい。やっぱり、自分では出てこない発想やアイデアを形にされている方がほとんどでした。大変興味深く拝見していました。
── 別の参加者の方から「Sakkyさんのプロダクトは最後のマネタイズまで設計できていてすごい」という声が出ていました。そこは最初から狙っていたんですか。
そうですね。形にして終わりではなくて、ちゃんとお金が動くものにしよう、というのは最初から考えていました。
「東京は手厚い」を、感覚ではなく数字にする
── 今回つくられたのは、子育て支援金を自治体ごとに比較できるサービスですね。何を課題に感じて着手したんですか。
これは自分が困っていたというよりも、この手の情報が話題になるわりに、みんな感覚で話をしているな、というところが引っかかっていたんです。
たとえば「東京都の支援は手厚い」という話はよく聞きますよね。でも、それって具体的にいくら違うのか。当然、世帯の状況によってケースも変わります。そういうものをちゃんと数字にしてあげられたら、引っ越し先を決めるときや、マンションを買うときに、納得のいく判断ができるんじゃないか。そういう気持ちが原点にありました。
調べた限り、同じことをやっているサービスは見当たらなかったので、これはやる意義があるなと思いました。
12体のエージェントが、事業ごと回している
── 提出されたリポジトリを拝見しました。「Estatix 子育て支援」、正直これWebサービスというより事業運営システムですよね。
そう言っていただけると嬉しいです(笑)。単体のサービスを置いておくというより、データを集めるところから経営判断まで、ひと通りをエージェントに分担させる形にしました。
── データ量がまずすごい。
いま東京・神奈川・千葉・埼玉で約135自治体、制度数でいうと2,500から3,000件くらいですね。1自治体あたり平均17〜29制度あります。児童手当、医療費助成、保育料、出産育児一時金、あとは自治体独自の上乗せとか。
それを世帯構成、子どもの学齢、人数、保育の形態、所得階層といった11の変数でパーソナライズして、18歳までの累計支給額を出します。全部の制度に出典URLと金額と受給要件を持たせているので、第三者が同じ計算を再現できる形にはしてあります。
── 制度って毎年変わりますよね。
そこはSCD Type 2で版管理しています。古い版を消さずに残していく方式ですね。そうすると改定の前後差分がそのまま取れるので、「あなたの条件だと、この制度改定で年間いくら変わります」という通知に転用できる。更新の手間だと思っていたものが、そのままサービスの価値になりました。
── エージェントは12体と伺いました。何をどう分けているんですか。
データ側が、計画を立てるplanner、新規自治体を取りにいくcollector、既存を差分更新するupdater、そして計算結果を独立に再計算して照合するvalidation。あとは計算エンジン、問い合わせのトリアージと返信で2体、Threadsの投稿と学習、noteの記事執筆、フロントエンドの実装、DB設計。
それと、全体を俯瞰して週次で施策を出す ceo というエージェントを置いています。KPIと各エージェントのジャーナルとユーザー行動を集約して、売上を伸ばすための施策トップ3を月曜の夜に出してくる。UIの変更を含む提案だったら、そのままフロントエンドのエージェントを呼んでモックまで作らせます。
── 経営会議をAIがやってるみたいな話ですね。
判断材料と試作品が勝手に揃っている、という感じですね。実行するかどうかは自分が決めますけど、そこまでの準備コストがほぼゼロになりました。
── 止まらないようにする工夫は。
macOSのlaunchdでスケジューラを3系統常駐させていて、1日6回以上は自律実行のサイクルが回ります。多重起動しないようにPIDでロックをかけて、止めたいときはフラグを一つ書けば一時停止できる。失敗したタスクは次の計画ループで自動的に積み直されますし、成功も失敗もDiscordに色分けで飛んできます。
── 「賢くなる」側はどう設計したんですか。
LESSONS.md というファイルに、これまで踏んだバグや誤判定をルール化して溜めています。いま31件ありますね。全エージェントが新しいタスクを始めるときに必ずこれを読むので、同じ失敗を二度踏まない。
Threadsも同じ考え方で、7時・12時・17時に投稿して、23時にエンゲージメントを集計して翌朝のテーマ選定に反映させています。問い合わせも24時間以内にトリアージして、バグならデータ修正、要望なら機能追加、質問なら記事化の候補、という具合に自動で振り分ける。問い合わせが増えるほどデータもコンテンツも厚くなる構造にしたつもりです。
── ちなみに、直近30日で160コミット入っていました。
そうですね、featが91でfixが42くらいだったかな。ほとんどはエージェントが積んだものです。
繰り返す作業は、まず全部AIに寄せた
── 今回のコンペのテーマは「Human out of the Loop」でした。このテーマをどう解釈して、プロダクトに落とし込んだんでしょうか。
人が入らないことをよしとする、というのは、これまでの常識からしたら考えられないことだったと思うんです。ただ、性能の高いAIが出てきたことで、それが現実に可能になった。だからまず、繰り返し発生する作業、日々やらないといけない作業は、全部AIに置き換えようという考え方でやりました。
具体的には二本柱で、ひとつはお客さんを集めるためのマーケティング。もうひとつは、毎月変わっていく支援制度のデータ更新です。この2つを特に、人が回さなくても動く状態にしました。
── 3週間という短い期間でした。一番しんどかったのはどこですか。
意外に思われるかもしれませんが、Human out of the Loop の部分には、そこまで時間はかかっていないんです。一番時間も労力もかかったのは、画面の設計でした。
ユーザーの方が実際に触る画面を、どういう順番で、どういう見せ方にすれば良い体験になるか。そこを考えて形にするところが、圧倒的に重かったですね。
── 逆に、これは刺さったな、うまくいったなという手応えは。
集客の部分です。課金まではしてもらえていないのですが、その一歩手前までは想定以上に到達できました。SNSを使って人を集めて、実際にサービスを触ってもらうところまでの導線は、かなりうまく引けたと思っています。
課金のハードルを、どう下げるか
── 第2期のテーマは「1円以上を稼ぐ」です。どう戦略を立てていきますか。
第2期は、第1期でつくったサービスをちゃんと結果につなげるところを考えています。事業としてやろうとしているものなので、形にして終わりだと、得られるものが少ない。少なくともあと1か月は歯を食いしばって試行錯誤したいですし、場合によっては一部を壊して、もう一度つくり直すことも考えています。
── いま、どこが一番のネックだと感じていますか。
直接課金のところですね。サービス上でクレジットカードを登録できる画面も機能も用意はしてあるんですが、そこはやっぱりハードルが高い。有名な会社がやっているサービスでもないですし、いまは月額課金で料金設定をしているので。
それはそれで様子を見つつ、集めてきたデータを活かしたコンテンツ販売のように、もっと敷居の低いマネタイズも試していこうと思っています。あわせて、お客さんを流入させるための検索エンジン対策もやっていくつもりです。
「熱さえあれば、スキルは後からついてくる」
── そもそも、DOT AI に入ろうと思ったきっかけは何だったんですか。
2025年7月頃のウェビナーです。当時ちょうど、年内に会社を辞めて独立することを検討していたタイミングでした。AIが来ているぞという中で、いかに自分の能力を増幅させられるか、拡張させられるか。それが事業の成否に直結するな、と直感的に感じたんです。ここはそれを伸ばせそうな場だな、と思ったのが参加の理由でした。
── 実際に部活やコンペに参加してみて、期待どおりでしたか。
とてもワクワクして、毎週参加していました。コンセプトがやっぱり素晴らしいなと思っていて、いかに人が介在しないかという発想は、とても新しいですし、今後間違いなくトレンドになる話だと思っています。その機会をいただけたのは、本当にありがたかったですね。
外部審査員の方々のコメントも勉強になりました。企業全体に責任を持っている立場の方の視点なので、こういう考え方でやらないといけないな、と。視野が広がるコメントが多かったです。
── 最後に、これからDOT AIに入ってくる方へ一言お願いします。
まず感じたのが、皆さんとても優しいということです。運営の方も、参加しているメンバーの方も本当に親切で、どんなことでも答えてくださる。だからAI初心者の方でも、怖がらずに参加していただきたいなと思っています。
そして、熱さえあれば、実力もスキルもどんどん身についていく場です。おすすめします。
