Anthropicは何を「発見」したと発表したのか——新酵素ARTsとAIエージェントの主張を整理
まとめ
Anthropicの「発見」発表——構図と主張の整理
- 発端はThe New York Timesが9月27日に報じた記事
- Anthropicが新設した生物学ラボの成果として、AIエージェントを使いバイオテクノロジーに有望な新酵素を発見したと発表
- AIエージェントには数十億単位の遺伝子配列を含むデータベースを検索するよう指示(プロンプトの正確な内容は非公開)
- データベースの中身は海洋や土壌などから採取されたDNAで、遺伝子の多くは微生物とウイルスのもの
- 発見した酵素は「ARTs」と命名
- 主張の核は「AIエージェントが新酵素を見つけた」というもので、単なる論文ではなく“AIが科学をやった”という宣言として受け取られた
- Anthropicは生物学研究を自社ミッションの中心に据えると表明。CEOダリオ・アモデイ氏は国連で「この種の応用は今後数年で急速に加速する」と述べた
- 期待値が高い発表だったからこそ、直後に科学者から疑問の声が上がった
室谷代表取締役今回の話、構図だけ先に言うと「AIが自力で科学を発見した」という派手な発表に、先行研究チームから待ったがかかった、というものなんですよね。発端はThe New York Timesが9月27日に報じた記事です。
Anthropicが新設した生物学ラボの成果として、AIエージェントを使ってバイオテクノロジーに有望な新酵素を発見したと発表した、と。
Anthropicが新設した生物学ラボの成果として、AIエージェントを使ってバイオテクノロジーに有望な新酵素を発見したと発表した、と。
テキトー教師DotAI 認定講師発表の中身を正確に置いておきましょう。Anthropicの研究者たちは、AIエージェントに対して、数十億単位の遺伝子配列を含むデータベースを検索するよう指示したと説明しています。
ただし、使ったプロンプトの正確な内容は記述されていません。
ただし、使ったプロンプトの正確な内容は記述されていません。
室谷代表取締役データベースに入っているのは海洋や土壌などから採取されたDNAで、遺伝子の多くは微生物とウイルスのものなんですよね。Anthropicはこの酵素を「ARTs」と呼んでいます。
テキトー教師DotAI 認定講師ここが第1のポイントです。Anthropicが打ち出したのは「AIエージェントが新酵素を見つけた」という主張で、その酵素にARTsという名前まで付けている。
単に論文を出したという話じゃなくて、"AIが科学をやった"という宣言として受け取られたんですよ。
単に論文を出したという話じゃなくて、"AIが科学をやった"という宣言として受け取られたんですよ。
室谷代表取締役しかもAnthropicは、生物学研究を自社ミッションの中心に据えると表明している会社ですからね。CEOのダリオ・アモデイ氏は、国連でのスピーチで「この種の応用は今後数年で急速に加速すると信じている。
人類を何千年も苦しめてきた疾病について、近い将来に大きな前進を成し遂げられる」と述べています。
人類を何千年も苦しめてきた疾病について、近い将来に大きな前進を成し遂げられる」と述べています。
テキトー教師DotAI 認定講師期待値が高い発表だったわけです。だからこそ、直後に科学者から疑問の声が上がったことに意味があるんですよね。
コペンハーゲン大学の研究者が反論——「その酵素は4年前から研究していた」
「新発見」をめぐる主張の対立
Anthropic側
- 「新発見」とされた酵素と関連分子(ARTs)
ロドリゲス・メストレ氏(コペンハーゲン大学・計算生物学者)
- 自分と同僚はARTsとその関連分子を4年間研究してきたと主張
- つまり「新発見」は自分たちにとって新しくないという反論
- 研究成果はまだ論文として未発表
- 過去3年間、コード作成や原稿起草にAnthropicのAIモデルを日常的に使用
- その過程で酵素に関する重要な知見をAnthropicと共有していたと述べる
室谷代表取締役そこに待ったをかけたのが、コペンハーゲン大学の計算生物学者マリオ・ロドリゲス・メストレ氏です。今週末に、自分と同僚たちは、AnthropicがARTsと呼ぶ酵素とその関連分子を4年間研究してきたと述べたんですよね。
テキトー教師DotAI 認定講師つまり「新発見」とされたものは、少なくとも彼らのグループにとっては新しくない、という主張です。ここは誤解されやすいので整理しておくと、メストレ氏のチームはまだ研究成果を論文として発表していないんですよ。
室谷代表取締役未発表。でも、過去3年間、コードを書いたり原稿を起草したりするためにAnthropicのAIモデルを日常的に使ってきた、と。
テキトー教師DotAI 認定講師そしてその過程で、酵素に関する重要な知見をAnthropicと共有していた、とメストレ氏は述べています。ここが今回の最大の論点につながる部分です。
研究者が日常的にAIを執筆やコーディングに使うのは今や珍しくありません。NotebookLMで読書が変わる?のように、資料をAIと一緒に読み込んで整理する使い方も広がっていますが、その入力内容がどこに流れていくのかは、研究者にとって他人事ではないんですよね。
研究者が日常的にAIを執筆やコーディングに使うのは今や珍しくありません。NotebookLMで読書が変わる?のように、資料をAIと一緒に読み込んで整理する使い方も広がっていますが、その入力内容がどこに流れていくのかは、研究者にとって他人事ではないんですよね。
室谷代表取締役実際、MYUUUでも日々の業務でAIに大量のテキストを投げていますから、この指摘は他人事じゃないなと思いました。
核心の争点:Claudeは自力で推論したのか、それとも答えを教えられていたのか
核心の争点:自力推論か、答えを教えられていたのか
メストレ氏の主張
- 最も重要な問いは『ARTsが既知だったか』ではなく、AIが本当に自力で結果にたどり着いたのかどうか
- この情報が将来のバージョンのモデルの学習に使われたのではないかと懸念
- RNA分子の配列と逆転写酵素関連タンパク質の同定は『自分たちが1年以上前にやった』と主張
Anthropicの説明(日曜日の声明)
- 今回発見したARTシステムを記述した先行公開研究は把握していない
- Claudeはユーザーのトランスクリプトで学習されておらず、分子生物学チームにもそのようなアクセス権はない
- Claudeの主要な貢献は、あるシステムの中のRNA分子の配列と、逆転写酵素に関連するタンパク質を同定したこと
室谷代表取締役メストレ氏のコメントが非常に的確なんですよね。「私にとって最も重要な問いは『ARTsが既知だったかどうか』ではない。
既知だったのだ」と。問題は、AnthropicのAIが本当に自力で結果にたどり着いたのか、それとも彼自身の研究の一部に基づいて結果へ導かれたのか、だと。
既知だったのだ」と。問題は、AnthropicのAIが本当に自力で結果にたどり着いたのか、それとも彼自身の研究の一部に基づいて結果へ導かれたのか、だと。
テキトー教師DotAI 認定講師さらにメストレ氏は「この情報が将来のバージョンのモデルの学習に使われたのではないかと懸念している」と述べています。これが今回の肝です。
室谷代表取締役これに対するAnthropicの日曜日の声明は、「今回発見したARTシステムを記述した先行公開研究を、我々は把握していない」というもの。加えて「Claudeはユーザーのトランスクリプトで学習されておらず、我々の分子生物学チームにもそのようなアクセス権はない」としています。
テキトー教師DotAI 認定講師Anthropicは、Claudeの主要な貢献は、あるシステムの中のRNA分子の配列と、逆転写酵素に関連するタンパク質を同定したことだと説明しています。
室谷代表取締役ただ、その同定についてメストレ氏は「自分たちが1年以上前にやった」と主張しているんですよ。ここは真っ向から食い違っている。
テキトー教師DotAI 認定講師さらに、Anthropicの研究者たちは、使ったプロンプトの正確な内容を記述していない。ここが検証を難しくしているんですよね。
プロンプトが分からなければ、AIが自力で推論したのか、答えに近い情報が入力に含まれていたのかを外部が確認できない。
プロンプトが分からなければ、AIが自力で推論したのか、答えに近い情報が入力に含まれていたのかを外部が確認できない。
AIエージェントによる科学的発見とは何か——従来の酵素探索・定向進化との違い
室谷代表取締役ここで一度、そもそも酵素探索ってどういう作業なのかを整理しておきたいんですよね。
テキトー教師DotAI 認定講師いいですね。整理するとこうです。
- 酵素は生体内の化学反応を促進するタンパク質で、洗剤・食品加工・バイオ燃料・医薬品など産業利用が広い
- 新酵素の探索は従来、実験室での大規模スクリーニングや「定向進化」と呼ばれる手法で行われてきた
- そのどちらも、時間と費用がかかる作業だった
- 「AIエージェント」とは、指示に応じて自ら複数ステップの作業(コード作成、データ解析、試行錯誤)を連続実行するAIの使い方
- 2024年以降、こうしたエージェント型の利用が急速に広がった
室谷代表取締役今回Anthropicがやったと主張しているのは、ビリオン単位の遺伝子配列データベースをエージェントに検索させる、というやり方です。実験の代わりに、既にある配列データの中から候補を見つけるアプローチなんですよね。
テキトー教師DotAI 認定講師従来の定向進化は、既にある酵素を何世代もかけて改良していく発想です。一方で今回の話は、データベースの中から見つけ出す探索型。
アプローチとしては別物です。だからこそ「新しい」という主張が成り立つ余地があるんですけど、同時に『その探索対象は本当に未知だったのか』という問いが避けられない。
アプローチとしては別物です。だからこそ「新しい」という主張が成り立つ余地があるんですけど、同時に『その探索対象は本当に未知だったのか』という問いが避けられない。
室谷代表取締役なるほど。探索型だからこそ、『既知の情報を知らなかっただけでは?』という疑いが生まれる構造なんですよね。
Anthropic側の反応と、データ汚染・論文未発表という検証の壁
テキトー教師DotAI 認定講師ここまでのAnthropic側の反応をまとめると、先行研究の存在は把握していない、Claudeはユーザーのトランスクリプトで学習していない、分子生物学チームにもユーザー情報へのアクセスはない、という3点です。
室谷代表取締役一方でメストレ氏の主張は、自分たちは3年間Anthropicのモデルを使い、酵素に関する重要知見を共有していた、というもの。両者は同じ事実関係について正反対のことを言っている状態です。
テキトー教師DotAI 認定講師そして今回は「検証の壁」が2つあるんですよ。1つはメストレ氏のチームの研究がまだ未発表であること。
もう1つはAnthropic側が使ったプロンプトを明らかにしていないこと。どちらも欠けたままでは、第三者が真偽を確かめることができない。
もう1つはAnthropic側が使ったプロンプトを明らかにしていないこと。どちらも欠けたままでは、第三者が真偽を確かめることができない。
室谷代表取締役これは構造的な問題ですよね。AIの学習データに何が入っているかは外から見えない。
ChatGPT長期記憶のすべてでも扱われているように、AIがやり取りを記憶して次の応答に活かす仕組みはすでに一般化していますが、『記憶』と『モデルの学習に使われること』は別の話で、その違いが外からは見えにくい。まさにそこが争点になっている。
ChatGPT長期記憶のすべてでも扱われているように、AIがやり取りを記憶して次の応答に活かす仕組みはすでに一般化していますが、『記憶』と『モデルの学習に使われること』は別の話で、その違いが外からは見えにくい。まさにそこが争点になっている。
テキトー教師DotAI 認定講師しかもAnthropicは、最大2兆ドルという評価額での上場が見込まれていると報じられています。生物学研究は自社ミッションの中心だと公言している。
つまりこの一件は、研究の話であると同時に、企業価値の話でもあるんですよ。
つまりこの一件は、研究の話であると同時に、企業価値の話でもあるんですよ。
この一件がAI業界に突きつけたもの——ベンチマーク汚染と『AI成果』発表の作法
室谷代表取締役この構図、実は今回が初めてじゃないんですよね。記事では、OpenAIの研究者たちが長年の数学パズルを解いたと主張した際にも、同様の懸念が浮上したことが触れられています。
ある著名な数学者が、自分は以前からその解に向けて同社のAIを使っていた、と指摘したと。
ある著名な数学者が、自分は以前からその解に向けて同社のAIを使っていた、と指摘したと。
テキトー教師DotAI 認定講師つまり『AIが成果を出した』という発表に対して、『その答えに至る道を、人間がすでにAIに与えていたのでは?』という問いが立てられるケースが繰り返し起きているわけです。これはベンチマーク汚染、あるいは学習データ汚染と呼ばれる問題と地続きです。
室谷代表取締役僕らがAIの性能を評価するとき、テストデータが学習に混ざっていたらスコアは意味を失いますよね。同じことが、科学の発見という文脈でも起きている。
しかも今回は『ユーザーが入力した情報』が経路になり得るという指摘なので、より根が深いなと。
しかも今回は『ユーザーが入力した情報』が経路になり得るという指摘なので、より根が深いなと。
テキトー教師DotAI 認定講師発表の作法も問われています。プロンプトを伏せたまま『AIが発見した』と打ち出すと、後から前提を疑われたときに検証する手立てがない。
講座でも受講生さんによく言うんですけど、AIの出力は『どう聞いたか』で意味がまったく変わるんですよ。研究発表ならなおさら、どう聞いたかを示さないと成果として成立しないんですよね。
講座でも受講生さんによく言うんですけど、AIの出力は『どう聞いたか』で意味がまったく変わるんですよ。研究発表ならなおさら、どう聞いたかを示さないと成果として成立しないんですよね。
室谷代表取締役ええ。実務でも同じで、AIに作業させた結果を社外に出すときは、どんな入力から何が出たのかを残しておく。
これは再現性の担保という意味でも必須だとMYUUUでも感じています。
これは再現性の担保という意味でも必須だとMYUUUでも感じています。
テキトー教師DotAI 認定講師現時点では、Anthropicの主張とメストレ氏の主張のどちらが正しいかは明らかにされていません。だからここで断定するのは避けるべきです。
ただ、『AIが自律的に発見した』という言い方を業界全体がもう少し慎重に扱う必要がある、という問題提起にはなっていると思います。
ただ、『AIが自律的に発見した』という言い方を業界全体がもう少し慎重に扱う必要がある、という問題提起にはなっていると思います。
よくある質問——AIの科学発見は信用できる?学習データ混入はなぜ問題?
室谷代表取締役この話、読者さんからすると疑問がいくつか出てくると思うんですよね。まず『AIの科学発見は信用できるのか』という点。
テキトー教師DotAI 認定講師現時点で言えるのは、今回の件はまだどちらが正しいか明らかにされていない、ということです。Anthropicは「今回発見したARTシステムを記述した先行公開研究を把握していない」「Claudeはユーザーのトランスクリプトで学習されておらず、分子生物学チームにもそのようなアクセス権はない」と述べています。
一方でメストレ氏は、自分たちが1年以上前に同じ同定をしていたと主張しています。第三者が確認できる形の情報がまだ出そろっていないんですよ。
一方でメストレ氏は、自分たちが1年以上前に同じ同定をしていたと主張しています。第三者が確認できる形の情報がまだ出そろっていないんですよ。
室谷代表取締役なるほど。『信用できるか』を判断するには、プロンプトの開示と、メストレ氏チームの研究の公表待ち、というのが正確なところなんですね。
テキトー教師DotAI 認定講師2つ目の『学習データ混入はなぜ問題なのか』については、答えはシンプルです。AIが自力で推論したのか、答えを教えられていたのかが区別できなくなると、『AIが科学的発見をした』という主張そのものの意味が変わってしまうからです。
室谷代表取締役つまり成果の価値が、AIの能力ではなく入力の質に依存してしまう可能性がある、ということなんですよね。
テキトー教師DotAI 認定講師そのとおりです。そして今回は、研究者が日常的にAIを研究作業に使っているという前提が背景にある。
だからこそ『知見を共有していた』という指摘が重みを持つんですよ。今後、AI企業が研究成果を発表するときには、モデルの学習元とプロンプトの扱いをどう説明するかが、避けて通れない論点になっていくと思います。
だからこそ『知見を共有していた』という指摘が重みを持つんですよ。今後、AI企業が研究成果を発表するときには、モデルの学習元とプロンプトの扱いをどう説明するかが、避けて通れない論点になっていくと思います。
室谷代表取締役発表の華やかさと、検証可能性のバランス。ここは業界全体がルールを作っていく段階なんでしょうね。
今回の一件は、その最初の大きなテストケースになったというわけです。
今回の一件は、その最初の大きなテストケースになったというわけです。
