M&A仲介はやめとけと言われる理由、ちゃんと整理しましょう
室谷今回は「M&A仲介はやめとけ」という声についてちゃんと向き合ってみましょう。スモールM&Aのウェビナーをやっていると、転職相談を受けることも増えてきて・・・実際に業界の実態を知りたい人がたくさんいるんですよね。
テキトー教師そうなんですよ。コミュニティのメンバーさんからも「M&A仲介への転職を考えているんですが、やめとけって言われて迷ってます」という相談をよく受けます。
高収入で社会貢献もできそうというイメージと、ブラックだという噂が両方出てきて判断できないと。
高収入で社会貢献もできそうというイメージと、ブラックだという噂が両方出てきて判断できないと。
室谷まず前提として言っておくと、「M&A仲介 やめとけ」という声は主に2つの文脈で出てくるんですよ。1つは転職先として働く側の視点、もう1つは売り手や買い手のクライアント視点で「M&A仲介会社に頼むのはやめとけ」というやつ。
今回は前者、働く側の話をメインに深掘りします。
今回は前者、働く側の話をメインに深掘りします。
テキトー教師この2つを混同して議論している記事が多いんですよね。転職先としてのM&A仲介と、サービスとしてのM&A仲介を分けて考えないと、判断を誤ります。
「やめとけ」の根拠として一番よく出てくるのが「激務」と「つぶしが利かない」の2点です。
「やめとけ」の根拠として一番よく出てくるのが「激務」と「つぶしが利かない」の2点です。
室谷激務については、業界の構造的な問題があるんですよね。M&A仲介の仕事って、成功報酬型のビジネスモデルなんです。
案件が成約しないと売上がゼロ。だから新人のうちは、ひたすらテレアポで案件を取ることが求められます。
案件が成約しないと売上がゼロ。だから新人のうちは、ひたすらテレアポで案件を取ることが求められます。
テキトー教師「1日100件電話をかける」というのが業界の常識として語られていて、これがSNSで「やめとけ」のリアルな声として広がっています。ただ正直、この文化は会社によって全然違います。
大手の中でも、外資系アドバイザリーに近い動き方をしている会社もある。
大手の中でも、外資系アドバイザリーに近い動き方をしている会社もある。
室谷会社選びで全然違う話になりますね。一方で業界全体として言うと、コンプライアンス強化の流れが来ています。
中小企業庁が事業者登録制度を整備して、監視を強めているので・・・昔みたいな「フルコミッションで自由に稼ぐ」時代は終わりに近づいています。
中小企業庁が事業者登録制度を整備して、監視を強めているので・・・昔みたいな「フルコミッションで自由に稼ぐ」時代は終わりに近づいています。
テキトー教師M&A業界全体でも「やめとけ」という声がありますが、仲介に特有の問題と業界全体の問題は分けて考える必要があります。M&Aアドバイザリー(FA)は仲介とは報酬構造が違うので、比較して考えると混乱します。
室谷そこは大事な区別ですね。M&A仲介は売り手と買い手の両方から報酬を得る「双方代理」の構造で、これが利益相反につながりやすい。
一方、FAは片方のクライアントだけを代理するので報酬体系が違います。M&A仲介に関するトラブルの多くは、このビジネスモデルに起因するものが多いんですよね。
一方、FAは片方のクライアントだけを代理するので報酬体系が違います。M&A仲介に関するトラブルの多くは、このビジネスモデルに起因するものが多いんですよね。
M&A仲介の激務はどのくらい?仕事の実態
テキトー教師激務の話を具体的にしましょう。M&A仲介の仕事のフローはこのようになります。
| フェーズ | 主な業務 | 目安の期間 |
|---|---|---|
| 新規開拓 | テレアポ・紹介・飛び込み | 継続的 |
| ヒアリング・評価 | 企業価値評価、財務分析 | 1〜2ヶ月 |
| マッチング | 相手先候補の選定・交渉 | 1〜3ヶ月 |
| 基本合意 | 条件交渉、LOI締結 | 1〜2ヶ月 |
| デューデリジェンス | 財務・法務・税務調査 | 1〜2ヶ月 |
| 最終合意・クロージング | 契約書作成、決済 | 1ヶ月 |

室谷このプロセス、案件によっては半年〜1年以上かかります。最初の新規開拓から最終合意まで全部1人でやる会社は少なくて、2〜3人チームで対応するところが多いんですが、それでも担当者の負荷は高い。
テキトー教師特に教える立場から見ていて感じるのが、デューデリジェンス(DD)の負荷の重さです。財務・法務・労務・税務の各分野を専門家と連携しながら、限られた期間で回す。
これが初めての案件だと相当プレッシャーになります。
これが初めての案件だと相当プレッシャーになります。
室谷DDで追い詰められるのはよくある話で・・・しかも1案件やっている最中に次の新規開拓もしないといけない。その結果、残業が月80〜100時間になるケースも珍しくないと業界内でも言われています。
テレアポ文化と数字のプレッシャー
テキトー教師テレアポ文化について、業界の実態をそのまま話すと、新卒・第二新卒で入ると「1日100件以上電話をかける」という数字ノルマが課されるケースが多いです。帝国データバンクのリストを買って、上から順番にかけていく。
室谷これ、受け手側のストレスがSNSでかなり話題になっていますよね。「またM&A仲介の電話か」って、中小企業の社長はみんな嫌な顔をする・・・。
MYUUUにもかかってきますよ(笑)
MYUUUにもかかってきますよ(笑)
テキトー教師「99件断られても100件目で繋がる」精神でやり続けるのが美徳とされているんですが、これ、精神的に消耗します。M&A業界に一度転職して3ヶ月で限界になったという話を聞くことも珍しくないのが正直なところで・・・向き不向きが本当に激しい業界です。
室谷一方で、このプロセスを乗り越えた人は確かに成長します。営業の鍛えられ方が半端じゃないので、そこは業界の良い部分でもあります。
ただ「成長できるから激務は正義」という理屈もおかしいので・・・そこは自分のキャリア観と照らし合わせて判断するしかないですね。
ただ「成長できるから激務は正義」という理屈もおかしいので・・・そこは自分のキャリア観と照らし合わせて判断するしかないですね。
案件1件の成約までの道のり
室谷成約率の話をすると、大手でもアドバイザー1人あたり年間1〜3件程度の成約が標準的なんですよ。案件を10個抱えていても、最終成約するのはそのうちの一部。
テキトー教師「1件成約できれば年収1,000万円超える可能性がある」というのはその通りなんですが、そこに至るまでのプロセスで多くの人が脱落します。新規案件の開拓から始まって、成約まで結果が出るのに半年〜1年かかる。
その間、成果がゼロの状態が続くわけです。
その間、成果がゼロの状態が続くわけです。
室谷しかも成功報酬型だから、成約しなかった案件に費やした時間と労力は報われない。これが精神的にきつい部分です。
大手のM&A仲介会社の離職率が比較的高いのも、この成果が出るまでの時間の長さが関係しています。
大手のM&A仲介会社の離職率が比較的高いのも、この成果が出るまでの時間の長さが関係しています。
テキトー教師ただここで注目したいのが、会社の収益構造です。有価証券報告書によると、上場しているM&A仲介大手の平均年収は1,500万円を超えており、M&Aキャピタルパートナーズに至っては約2,987万円(2023年9月期)という数字が出ています。
これは当然、生き残った人たちの平均値ですが・・・
これは当然、生き残った人たちの平均値ですが・・・
室谷そうなんですよね。ハイリスク・ハイリターンの構造で、合う人には信じられないくらい高収入になれる。
合わない人には地獄になる。これがM&A仲介という業界の正直な姿だと思います。
合わない人には地獄になる。これがM&A仲介という業界の正直な姿だと思います。
M&A仲介で働くことのリスクと注意点
テキトー教師「やめとけ」の声で見逃されがちなのが、長期的なキャリアリスクの話です。「つぶしが利かない」という表現がよく使われますが、これはどういう意味なのかを見ていきましょう。
室谷M&A仲介で培うスキルって、確かに専門性が高いんですよ。企業価値評価、M&Aプロセスの管理、経営者との交渉。
これ、ほかの業界ではあまり使わないスキルなんですよね。だから業界を出ようとした時に、武器として使いにくい部分がある。
これ、ほかの業界ではあまり使わないスキルなんですよね。だから業界を出ようとした時に、武器として使いにくい部分がある。
テキトー教師一方で、財務知識や交渉力はポータブルスキルとして転用できる面もあります。PE(プライベートエクイティ)ファンドや事業会社のM&A部門への転職事例も実際にあります。
ただ、汎用性という意味ではコンサルや金融の他業種より低い、というのが正直なところです。
ただ、汎用性という意味ではコンサルや金融の他業種より低い、というのが正直なところです。
つぶしが利かないと言われる理由
室谷「つぶしが利かない」問題をもう少し深掘りすると、M&A仲介のキャリアパスって、実はかなり狭いんです。業界内での転職(仲介会社から仲介会社)か、アドバイザリー系への横移動か、事業会社のM&A部門か・・・という選択肢になりがちです。
テキトー教師加えて、M&A仲介で活躍していた人が独立して小規模の仲介事務所を開くケースもあります。ただそれも業界に閉じたキャリアなので、「他の選択肢を持つ」という意味での転用性は低いですね。
室谷そもそも僕がスタートアップの世界から見てM&A仲介をどう見るかというと・・・面白い仕事だと思うんですよ。売り手の経営者と深く関わって、事業の未来を一緒に考える。
これはコンサルやPEとも違うやりがいがあります。ただ、30代後半40代になった時に「この業界でしか生きられない」状態になるリスクは、入る前に理解しておくべきです。
これはコンサルやPEとも違うやりがいがあります。ただ、30代後半40代になった時に「この業界でしか生きられない」状態になるリスクは、入る前に理解しておくべきです。
テキトー教師これはキャリア相談でいつも言うんですが、「最初の3〜5年でM&Aの基礎スキルを身につけて、そこから専門性を広げる戦略を持つ人」と「ただ成績を積んで生き残ることに必死になる人」では、10年後のキャリアが全然違います。
コンプライアンス強化で稼ぎにくくなった
室谷もう1つ大事な文脈として、業界のコンプライアンス強化があります。2020年代に入って、中小企業庁がM&A支援機関の登録制度を整備して、適正な取引基準を定めたガイドラインを設けています。
これが業界の稼ぎ方を変えつつあります。
これが業界の稼ぎ方を変えつつあります。
テキトー教師以前は「しつこいテレアポと強引な営業で案件を取れれば正義」という文化があったのが、今はガイドライン違反の事業者に対して中小企業庁の窓口に通報できる仕組みが整いました。Xで悪質な営業電話がさらされたりもして・・・透明性が上がっています。
室谷これ自体は業界にとって良い変化だと思うんですが、「気合いと根性でテレアポしまくれば稼げる」という昔のやり方は通用しなくなってきています。そうすると、スキルが低い営業担当は案件が取れない→成約ゼロ→低収入という状態になりやすい。
テキトー教師競合も増えていますよね。中小企業庁の登録事業者は2,000社を超えていて、その外にも未登録のプレイヤーがいます。
案件の取り合いが激しくなって、案件単価も下がっている傾向があります。
案件の取り合いが激しくなって、案件単価も下がっている傾向があります。
室谷だから「昔の高収入のイメージでM&A仲介に転職する」のは、少し情報が古い可能性があるんですよね。上場大手は依然として高水準の平均年収を維持していますが、中小規模の仲介会社や独立系の事務所では状況が違う場合もあります。
M&A仲介に向いている人、向いていない人
テキトー教師「やめとけ」の話ばかりしてきましたが、ここは公平に向いている人の話もしましょう。これ、かなり明確な特徴があると思っています。
室谷そうですね。M&A仲介に転職して成功している人を見ると、共通パターンがあるんですよ。
まず大前提として、「拒絶されることに慣れている」か「慣れる意欲がある」人でないと、テレアポの段階でやられます。
まず大前提として、「拒絶されることに慣れている」か「慣れる意欲がある」人でないと、テレアポの段階でやられます。
テキトー教師向いている人の特徴を挙げると、まず高いプレッシャー耐性が必要です。成約が出るまでの数ヶ月、成果ゼロが続いても折れない精神力。
次に経営者への共感力で、売り手の中小企業オーナーは人生をかけた事業を手放す判断をします。その感情に寄り添える人間力が必要です。
次に経営者への共感力で、売り手の中小企業オーナーは人生をかけた事業を手放す判断をします。その感情に寄り添える人間力が必要です。
室谷財務・法務の学習意欲も不可欠ですね。財務分析、企業価値評価、契約書の読み解きなど、専門知識の習得を楽しめる人でないと厳しい。
そして数字へのコミット力。年収目標・件数目標に対して、逆算して動ける自己管理能力がある人が向いています。
そして数字へのコミット力。年収目標・件数目標に対して、逆算して動ける自己管理能力がある人が向いています。
テキトー教師逆に向いていない人も明確で・・・「即効性を求める人」はきついと思います。テレアポで即アポが取れる、案件を取ればすぐ成約する、みたいな短期成果を求める人はストレスがたまりやすい。
室谷あとは「ルーティンワークで安定したい人」も合わないと思います。M&A仲介の仕事って、案件ごとに全然違う。
同じ業種の売り手でも、オーナーの事情・財務状況・希望条件が全部違う。毎回ゼロベースで考える必要があって、それを楽しめるかどうかが分岐点です。
同じ業種の売り手でも、オーナーの事情・財務状況・希望条件が全部違う。毎回ゼロベースで考える必要があって、それを楽しめるかどうかが分岐点です。
テキトー教師そこは本当にそうですね。あと、単純に「高年収だから」という理由だけで入ると、現実とのギャップが大きすぎてやめやすいです。
M&Aに対して「事業の承継を支援したい」「経営者のパートナーになりたい」という仕事への意味づけがある人の方が長続きします。
M&Aに対して「事業の承継を支援したい」「経営者のパートナーになりたい」という仕事への意味づけがある人の方が長続きします。
室谷.AI(ドットエーアイ)のコミュニティでも「副業でM&Aアドバイザリー的なことはできないか」という質問が出ることがあります。実際、フリーランスのM&A仲介業者という形で独立している人はいますが、案件を取るための人脈と信頼の蓄積が前提なので、副業で稼ぐのはかなりハードルが高いです。
それでもM&A仲介に転職するなら:会社選びのポイント
テキトー教師ここまでの話を踏まえて、M&A仲介への転職を検討している人向けの話をしましょう。M&A仲介 転職のハードルは「気合いだけでは超えられない」という認識を持って入るかどうかで、入社後の体験が全然違います。
室谷ここまで読んで「それでも挑戦したい」という人向けに、会社選びのポイントを話しましょう。M&A仲介の会社って、ピンキリなんですよね。
テキトー教師そうですね。会社によって働き方が全然違います。
確認すべき軸はこのようなものがあります。
確認すべき軸はこのようなものがあります。
| 確認ポイント | 良い例 | 避けるべき例 |
|---|---|---|
| 営業スタイル | チーム制・紹介案件中心 | 個人ノルマ・テレアポ依存 |
| 研修・育成 | 体系的なOJT・先輩同行あり | 即実践・放置型 |
| 案件規模 | 成約単価が高い中規模以上 | 小規模案件の数をこなす型 |
| 平均在籍期間 | 3年以上 | 1年未満が多い |
| 開示情報 | 有価証券報告書で確認できる上場企業 | 情報が少ない非上場の小規模事務所 |
室谷特に大事なのが「平均在籍期間」で、短い会社は離職率が高い証拠です。面接で直接聞いても良いですし、転職口コミサイトである程度の情報は確認できます。
テキトー教師もう1つ確認したいのが、成功報酬型の歩合制か固定給ありかです。完全歩合制の会社は初期の収入が不安定になります。
特に家族がいる方や生活費が高い方は、固定給がある会社から始めた方がリスクを抑えられます。
特に家族がいる方や生活費が高い方は、固定給がある会社から始めた方がリスクを抑えられます。
室谷あと、M&A仲介の「やめとけ」という声の中には「仲介会社は売り手と買い手の両方から手数料を取る利益相反構造だ」という指摘もあります。これはサービスとしての批判ですが、転職先を選ぶ際にも重要な視点です。
利益相反をどう解消しているか、透明性が高いかどうかを確認してから入社を決めると良いですね。
利益相反をどう解消しているか、透明性が高いかどうかを確認してから入社を決めると良いですね。
テキトー教師最終的には、M&A仲介に転職する前に「業界内の知人に話を聞く」のが一番のリスクヘッジです。転職エージェントは基本的に入社を勧める方向に話を持っていくので、実際に働いている人から直接現場の話を聞くのが理想です。
室谷これ、M&Aに限らずキャリア全般に言えることですが・・・本音ベースで話してくれる業界内の人間を1人でも知っているかどうかで、判断の質が全然変わりますよね。
まとめ:M&A仲介はやめとけは半分正解、半分不正解
室谷今回の話をまとめると、「M&A仲介はやめとけ」という声は完全な間違いではないんですよ。激務、テレアポ文化、つぶしが利かないリスク、コンプライアンス強化での稼ぎにくさ・・・これらは全部本当の話です。
テキトー教師ただ、「半分不正解」でもあります。ハイリスク・ハイリターンの構造を理解した上で入って、生き残った人は確かに高収入を得ています。
経営者の人生の節目に深く関われるやりがいは、他の仕事ではなかなか得られないものです。
経営者の人生の節目に深く関われるやりがいは、他の仕事ではなかなか得られないものです。
室谷大事なのは「どの文脈でやめとけと言われているか」を理解すること。激務に耐えられるか、長期的なキャリアリスクを許容できるか、そして会社選びを間違えないか。
この3点をクリアできれば、M&A仲介は十分に挑戦する価値がある仕事だと思います。
この3点をクリアできれば、M&A仲介は十分に挑戦する価値がある仕事だと思います。
テキトー教師転職を検討するなら、まず中小企業庁のM&A支援機関登録制度のページで登録事業者を確認して(
室谷そして可能であれば、現場で働いている人から直接話を聞く。スモールM&Aのコミュニティにいると、業界関係者と話す機会が作りやすいので、そういった場を活用するのも1つの手ですよ。
